MITはなぜ、SATやACTを出願要件として復活させるのか。
アメリカにあるマサチューセッツ工科大学MITは、タイムズハイヤーエデュケーションTHE世界大学ランキングで常に上位の位置する、世界でもトップクラスの大学です。世界的に有名な大学ですのでその名前を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。このMITは新型コロナウィルスの感染が拡大している2020年にSATとACTと呼ばれる試験のスコア(得点)提出を出願要件から外すことを発表していました。しかし先月末、MITはスコア提出を出願要件として復活させることを発表しています。
新型コロナウィルスの感染拡大によりSATやACTの試験日程が延期されたことから、MITを含めた多くの大学がこれら標準テストのスコア提出を出願要件から外し、受験生の高校での経験やプロファイルといった点に合否審査の重点を移していました。そしてその傾向は新型コロナウィルスとの共存を考えるエンデミックへと移行しつつある現在も続く中で、MITがあえてSATとACTのスコア提出を出願要件として復活させた理由はどこにあるのでしょうか。
MITは自校の使命を「MITの比類のない教育と文化と相性が良い、多彩な才能ある生徒を募集し、選択し、登録すること」であるとし、そのために入学要件にSATおよびACTを復活させることを決定したと説明しています。その上で、「(SATやACTなどの)標準化されたテストにより、全ての志願者がの学力をより良く評価することに役立ち、MITへの準備ができていることを示す高度なコースワークやその他の機会にアクセスできない、社会経済的に不利な立場にある学生を特定するののにも役立つことがMITが行った調査から明らかになったとして、「(SATやACTのスコア提出を出願要件とすることが)テストオプション(=SATやACTのスコアの提出を任意とすること)よりも公平で透明性が高いと考えている」と述べています。
2020年にSATやACTを出願要件から外すことをMITが発表した際には、MITはテストのスコアを評価するのではなく、「学生のためにより良い決断を下す助けにする程度しかテストのスコアを評価していない」と説明し、SATやACTの特に数学セクションの成績を考慮することが、「学生が入学後に成功するかどうかの予測を行う場合、その予測の精度が大幅に向上することとが明らかになっている」と述べており、この当時からSATやACTを出願要件とすることの重要性を強調していました。
また、MITはSATやACTなどの標準化テストについて、その成績は合否判定の中心とはならないと述べた上で、「提出されたテストのスコアが高いだけでは十分ではなく、高校での成績やMITの課題が困難と感じた場合への適応性、さらにMITのリソースを率先して活用する能力など、MITとの強い相性を見せる必要がある」とし、そのためにテストの点数だけで学生を選ぶのではなく、志願者がMITで成功するための準備をより確信できるように点数を考慮する」と説明しています。
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今回のMITの発表を詳しく読んでみると、スコア提出は合否判定の中心ではないものの、MITが考える「基礎学力」、つまり入学前にはここまで学んでおいて欲しい、というレベルに到達しているかどうかを見るために使われているという印象です。
アメリカの大学入試に「足切り」というものがあるかどうかはわかりませんが、特に数学に関しては、志願者が文系、理系を問わず、一定のレベルを求めているということでしょう。実際に発表された声明にはこのような一節があります。「MITの全ての学部生は、専攻に関係なく、微積分、物理学、生物学、化学の難しいクラスに合格する必要があります。(中略)これら全てを行う準備ができている学生のみに対して責任を持って入学を認める。」つまりこういったクラスに合格するための基礎学力を見るためにSATやACTのスコアを活用する、ということでしょう。
SATとは
正式名称はScholastic Assessment Test(大学進学適性試験)で、非営利法人であるカレッジボードCollege Boardが主催する標準テストで、アメリカの大学の合否判定に用いられるテストの一つ。SATにはReasoning Test(論理性試験)とSubject Test(科目別試験)があり、SATという場合には前者のReasoning Testを指すことが多い。このReasoning Testは主に言語能力と数学的思考力に関するテストで、1)Reading Test、2)Writing and Language Test、3)Mathematicsの3つのセクションで構成される試験。
ACTとは
正式名称はAmerican College Testing Program(アメリカ大学試験プログラム)で、やはり非営利法人で試験名と同名のACTが主催する標準テスト。SATと同様にアメリカの大学の合否判定に用いられるテストの一つ。ACTは1)English、2)Math、3)Reading、4)Scienceの4つのセクションで構成される試験。